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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)49号 判決 1982年6月10日

控訴人(原告) 株式会社川崎パブリツクコース

被控訴人(被告) 建設省関東地方建設局長

訴訟代理人 瀬戸正義 外九名

主文

一  本位的請求について

本件訴えをいずれも却下する。

二  予備的請求について

原判決を取り消し、本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じて控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、本位的請求として、「一控訴人が河川法第二四条に基づき昭和五〇年二月二七日付でした占用許可申請に対して、原判決添付図面イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を読んだ土地部分(同図赤斜線部分、以下「本件土地部分」という。)についての被控訴人の占用不許可処分は存在しないことを確認する。二被控訴人が控訴人において昭和五〇年二月二七日付でした占用許可申請に対し占用許可処分をなすべき義務のあることを確認する。」との判決を、予備的請求として、「一原判決を取り消す。二被控訴人が控訴人の河川法第二四条に基づく占用許可申請に対し、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつてした処分のうち、本件土地部分についての不許可処分を取り消す。」との判決を求めるとともに、訴訟費用につき「第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、本位的請求に対し、本案前の申立てとして訴却下の判決を、本案につき請求棄却の判決を、予備的請求に対し、本案前の申立てとして、「原判決を取り消す。訴えを却下する。」との判決を、本案につき控訴棄却の判決を求めた。

第二主張

一  本位的請求の請求原因

1  占用不許可処分不存在確認請求について

右請求についての控訴人の主張は、次のとおり訂正するほか、原判決事実摘示第二請求の原因一、二と同一であるから、これを引用する。

原判決三丁表一〇行目の「部分については」以下同末行までを削除し、「本件土地部分については、占用の許可又は不許可処分のいずれをもしなかつたので、被控訴人の右土地に対する占用不許可処分は存在しない。よつて、右占用不許可処分の不存在確認を求める。」

2  占用許可処分作為義務確認請求について

控訴人は、昭和二九年五月四日本件土地部分を含む区域(原判決二丁裏末行)及び近隣地(昭和四四年一月に返還された部分)につきゴルフコース建設のため占用許可を受け、以来一〇回余にわたつて占用期間が更新され、二〇年間余右区域をゴルフコース等として使用してきた。このような場合、占用者は占用の利益について法律の保護を受けるべき既得権ないし期待権を有するというべきであり、占用期間満了時には、占用許可権者は、特別の理由のない限り、占用許可処分をなすべき義務を負うのである。よつて、控訴人は被控訴人に対し、控訴人のした前記占用許可申請に対する占用許可処分をなすべき義務のあることの確認を求める。

二  本位的請求に対する被控訴人の本案前の主張

1  占用不許可処分不存在確認請求について

控訴人の右請求は、占用不許可処分を占用期間の更新拒絶ないし占用許可の撤回と解したうえ、右不許可処分の不存在の確認をえて、控訴人の本件土地部分についての占用権を確保しようとするものであるが、右目的を遂げるためには処分の不存在を前提として現在の法律関係に関する訴えを提起すれば足りるから、右訴えは行政事件訴訟法三六条の要件を欠く不適法な訴えとして却下されるべきである。

2  占用許可処分作為義務確認請求について

右請求はいわゆる義務づけ訴訟であり、そもそもかかる請求は司法審査の事後審査制から原則として許されないのであるが、特に河川敷地である本件土地部分についての占用許否の処分は河川管理者の広汎な裁量に委ねられているのであるから、右のような義務づけ訴訟の許されないことは明白である。また、控訴人の本件占用許可申請に対しては、昭和五〇年三月二七日すでに不許可処分がなされており、控訴人は右不許可処分の取消しを求めることによつてその権利救済を図れば足りるから本請求は許されない。よつて、本請求について訴えは却下されるべきである。

三  本位的請求の請求原因事実に対する認否及び被控訴人の主張

1  占用不許可処分不存在確認請求について

請求原因事実中、本件土地部分について占用の許可又は不許可処分のいずれをもしなかつた点、右土地に対する占用不許可処分は存在しない点は否認し、その他の事実は認める。被控訴人は、控訴人の本件占用許可申請に対し昭和五〇年三月二七日付で占用不許可処分をしているのである。

2  占用許可処分作為義務確認請求について

控訴人が昭和二九年五月四日、本件土地部分を含むその主張の区域につきゴルフコース建設のため占用許可を受け、二〇年間余右区域をゴルフコース等として使用してきたことは認めるが、その他の事実は争う。控訴人に対する右区域についての占用許可は一〇回余にわたつているが、それは占用期間の更新ではなく、いずれも新たな占用権の付与である。

四  予備的請求の請求原因

原判決事実摘示第二請求の原因の項に続けて次のとおり附加するほか右と同一であるから、これを引用する。

「四 被控訴人のした本件不許可処分は、左の諸観点に鑑み、裁量権を逸脱ないし濫用するものである。

1  行政上の平等原則

河川敷地の占用許可については、昭和四〇年一一月一〇日付け河川審議会答申に基づく同年一二月二三日付け建設事務次官通達「河川敷地占用許可準則」が具体的にその基準を設定しているが、その後においても、全国各地の河川敷地に新たなゴルフ場の開設が許され、その大半はメンバー制であり、また都市河川たとえば荒川においてもメンバー制のゴルフ場の存続が許されている。控訴人は、いち早くメンバー制をやめ、パブリック制としたほか、入場料を安くし、老人や身体障害者に対する優遇措置をとり、一般公衆の用に供する運動場にふさわしいゴルフ場を営んでいる。右のように、一方においてメンバー制のゴルフ場の開設、存続のため河川敷地の占用許可をしながら、他方において公共性の高い控訴人のゴルフ場営業のための占用について不許可処分をすることは、行政上の平等原則に反する。

2  河川敷地をゴルフ場として使用することの合理性

河川敷地をゴルフ場として使用することは、治水、災害対策、景観、住民の情操、国家及び地方財政上、もつとも合理的である。特に、近時、ゴルフ人口が増加しており、ゴルフは都市生活者、老人、女性、身体障害者に格好なスポーツとなつており、ゴルフ場は一般公衆の用に供する運動場となつている。

3  行政上の信義則

控訴人は、昭和二九年占用許可を受け、前記区域附近においてゴルフ場を開設したのであるが、それは川崎市長からの誘致によるものであり、また、右ゴルフ場は一八ホール、メンバー制であつたところ、控訴人は第一次開放計画の方針にしたがい、昭和四四年一月以降九ホールに縮少し、低料金のパブリツク制と改め、土地の一部を返還したのであるが、その際控訴人側の所管者建設省河川局長は右のように改めれば、長期間ゴルフ場としての占用を許すことを控訴人に約束した。右経緯に照らすと、本件不許可処分は行政上の信義則に反する。

五  本件不許可処分は憲法第一四条に違反する。

多摩川と同様、首都圏ないし大都市圏にある河川の河川敷地については、前記「河川敷地占用許可準則」が定められたが、その後においても、メンバー制ゴルフ場経営のための占用が許可されている。たとえば、多摩川と地理的、社会的条件の近似する荒川や江戸川においてはメンバー制のゴルフ場とするために占用が許可されている。しかるに、被控訴人は、多摩川については開放計画をたて、本件不許可処分によつて、前述のように早くからメンバー制をパブリツク制に改め、低料金とし、老人や身体障害者を優遇する等して一般公衆の用に供する運動場にふさわしいものとなつている控訴人のゴルフ場のためには、占用を許さないものであり、右処分は、前記準則の適用において、著しく不公平なものであつて、憲法第一四条に違反する。」

五  予備的請求に対する被控訴人の本案前の主張と控訴人の反論

1  被控訴人の主張

控訴人の本件占用許可申請は、占用期間を昭和五〇年四月一日以降同五一年三月三一日としているところ、右期間はすでに経過しており、仮に本件不許可処分が取り消されても、被控訴人があらためて許可処分をする余地はない(なお、その後毎年占用許可申請、不許可処分がされ、これについて控訴人から取消しを求める訴えが提起されている。)よつて、本請求は訴えの利益を欠く不適法なものであるから、訴えは却下されるべきである。

2  控訴人の反論

控訴人が本件占用許可申請にあたり、占用期間を昭和五〇年四月一日より同五一年三月三一日までとしたことは認める。しかし、それは、申請書が受理されないことをおそれた控訴人が、被控訴人の指導のまま申請書に占用期間として右の期間を記載したにすぎないのであり、重要な意味はない。なお、既述のように、本件許可申請に対する被控訴人の許可は、占用期間の更新にすぎないのであり、右許可がなくても、控訴人の占用権が失われるものではないが、占用期間が経過すると、被控訴人から即時明渡しを求められるおそれがあるので、期間経過のたびに控訴人は占用許可申請をし、不許可処分に対しては取消しを求めて訴えを提起しているのである。

六  予備的請求の請求原因事実に対する認否と被控訴人の主張

「河川敷地占用許可準則」が定められたのちにおいても、全国各河川敷地でゴルフ場用地として占用許可がされたこと、その中にはメンバー制のゴルフ場もあること、首都圏、大都市圏内の河川の河川敷についてもメンバー制のゴルフ場とするための占用が許可されていること、控訴人がメンバー制をやめパブリツク制にしていること等は認めるが、その他の事実は争う。各河川において、河川の性格、状況、占用の性格、状況、経緯等が異なるのであるから、開放計画も異なり、その結果占用の許可、不許可の対応も異なるのは当然であるところ、右差異を表面的にとらえて裁量権の濫用とか憲法第一四条に違反するなどということはできない。たとえば、多摩川と荒川、江戸川とを比較すると、多摩川のゴルフ場は占用面積がもつとも広く、これを一般公衆に開放すべきであるとの声も高かつたこと等からゴルフ場は九ホールとすることとし、荒川については、その下流域が地盤沈下地帯であるため多摩川のようにそのまま公園等にするわけにいかないので、交通便利な一部についてのみゴルフ場を廃止させることとしたのであり、江戸川については、流域附近の人口が多摩川や荒川ほど稠密になつてはいないため、全面開放を行うこととされていないのである。

第三証拠<省略>

理由

第一本位的請求について

一  占用不許可処分不存在確認請求について

控訴人が神奈川県川崎市幸区小向及び古市場地先にある多摩川右岸の河川敷地について、ゴルフコース建設の目的で昭和二九年五月四日占用許可を受け、同所にゴルフコースを設置してその占用を開始したこと、以後原判決添付別表一記載のとおり、占用面積を減少させながら逐次占用期間を定めた占用許可を受けて右占用を継続してきたこと、控訴人が従前から占用許可を受けて占用していた区域(原判決添付図面中赤線で囲んだ部分)について、占用期間の満了前である昭和五〇年二月二七日、さらに河川法第二四条に基づく占用許可の申請をしたところ、被控訴人は、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつて、右区域のうち本件土地部分を除く部分について、占用期間を昭和五〇年四月一日より同五一年三月三一日までと定めて占用許可をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴人は、本件土地部分については、右占用許可申請に対する不許可処分は存在しないことの確認を請求するところ、右請求は、不許可処分の存在しないかぎり控訴人の本件土地部分についての従前の占用権が存続することを前提とすると解されるが(なお、占用許可処分によつて始めて占用権が生ずるとすると、許可申請に対する不許可処分の存在しないことの確認を求めることは全く無意味である。)、そうすると、控訴人は不許可処分のないことを前提として右占用権の確認を求めれば足りるのであるから、右請求は、行政事件訴訟法第三六条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」には当たらないのであつて、不適法として却下を免れない。

二  占用許可処分作為義務確認請求について

右請求は、本件許可申請に対し、被控訴人は本件土地部分について占用許可をなすべき義務のあることの確認を求めるものであるが、かようないわゆる義務づけ訴訟は原則として許されないと解されるところ、前述の当事者間に争いのない、控訴人が昭和五〇年二月二七日本件土地部分を含む前記区域につき河川法第二四条に基づく占用許可申請をし、被控訴人が同年三月二七日付建関水第一九四号をもつて本件土地部分を除く部分について占用許可処分をした事実、成立に争いない甲第一号証、弁論の全趣旨によると、被控訴人はその際右建関水第一九四号により同時に本件土地部分について不許可処分をしたことが認められるから、控訴人は右不許可処分の取消しを求めるほかなく、またそれにより権利救済に欠けるところはないから、右請求は不適法であつて、却下を免れない。

第二予備的請求について

控訴人が占用期間を昭和五〇年四月一日より同五一年三月末日までとして、本件占用許可申請をしたことは、当事者間に争いがない。

被控訴人は、右占用期間はその期間が経過すれば占用権が当然消滅する趣旨の期間であり、右申請に対する許可処分は新たな占用権の付与であるところ、すでに右期間が経過しているから、被控訴人はもはや右申請に対して許可処分をすることはできないのであり、控訴人も本件許可処分の取消しを求める利益はないと主張し、控訴人はこれを争うので、検討する。

控訴人が、本件土地部分を含む河川敷地について、昭和二九年以来一〇回位にわたり逐次占用許可を受けてきたこと、右各占用許可について占用期間が定められたことは、前記判示のとおりである。そして、当裁判所も、右各占用許可はいずれも新たな占用権の設定であり、占用期間はその経過により占用権が当然消滅する趣旨の期間と判断するものであつて、占用期間が単なる占用許可更新のための期間であり、したがつて占用不許可処分が更新拒絶である、と解することはできないと考える。その理由は、原判決二二丁表八行目の「もともと」以下同三三丁裏二行目の「失当である。」までと同一であるから、これを引用する。

従前の占用許可の性質、占用期間の趣旨が右のように解すべきものであること、成立に争いない甲第四二号証の一八ないし二三によつて認められる、控訴人が本件許可申請の翌年である昭和五一年以降も毎年占用期間を一年とする占用許可申請をし、控訴人もこれに対し、一部許可、一部不許可の処分をしていること等によると、本件占用許可申請についても、その目的である占用許可(したがつてまた不許可処分)の性質、占用期間の趣旨は、従前と同一のもの、すなわち、占用許可は新たな占用権の設定、占用期間はその経過によつて占用権が当然消滅する趣旨のものと解すべきである。当審証人南保昭市の証言中右の判断に抵触する部分は、概ねひとつの意見にとどまるもので採用しがたく、他に右判断を左右するに足りる資料はない。また、右証言中には、控訴人が右のような占用期間を付して許可申請をしてきたのは被控訴人の指導、示唆によるものである旨の供述があるが、そのことは、なんら右判断を左右するものではない。

そして、占用許可の性質、占用期間の趣旨が右のようなものである以上、右許可申請に付された占用期間が経過し更に年月を経ている現在、被控訴人において、右申請に応じてこれを許可し控訴人に右期間の占用権を与える余地はなく、反面、控訴人も本件不許可処分の取消しを求める利益を失つたものといわなければならない。

前掲甲第四二号証の一八ないし二三、成立に争いない甲第四二号証の一ないし一七によると、従来、占用許可がおくれ、占用期間開始後にある程度の期間を遡つて占用許可がなされたことのあることは認められるが(但しいずれも占用期間内になされている。)、このことによつて右判断を左右することはできない。また、原審における控訴人代表者佐藤兼蔵本人の供述によると、控訴人は、本件不許可処分がなされたにもかかわらず、適法な許可にかかる占用期間の経過した昭和五〇年四月一日以後も、本件土地部分を占有していることが認められるところ、右占有の適否、それに伴う損害賠償の要否等が、本件不許可処分の適否と関係することが考えられないではないが、そのことをもつて、控訴人が自ら提起した訴えにより進んで右不許可処分の取消しを求める利益を有することの根拠とすることもできないと解される。

以上のとおりであつて、控訴人は本件不許可処分の取消しを求める利益を有しないから、右請求も訴却下を免れない。

第三結論

よつて、本位的請求について、訴えをいずれも却下し、予備的請求について、原判決を取り消した上、訴えを却下し、訴訟費用について、民事訴訟法第九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井口牧郎 田尾桃二 藤浦照生)

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